【山の木を活かす⑦】伐って、使って、また育てる|ミズナラの萌芽更新と里山の循環
山の木を活かす方法は、伐った木を木材や薪、炭などとして利用することだけではありません。
伐った後の根株から新しい芽を育て、次の世代の森林へつないでいくことも、木を活かす方法の一つです。
2025年11月、森林作業道の開設時に支障木として残していたミズナラ3本を伐採しました。
伐採した木はホダ木として利用しましたが、それで終わりではありません。
ミズナラが持つ萌芽する力を活かしたいと考え、萌芽更新を狙って根株を作業道の路肩に埋め戻しました。
それから約9か月。
2026年8月、根株を見ると、あちこちから新しい芽が伸びていました。
萌芽更新を狙って埋め戻した根株でしたが、実際に新しい芽が伸びている姿を見ると、ミズナラが持つ再生する力をあらためて感じます。
作業道を開設したときに残した3本のミズナラ

この場所で森林作業道の開設を始めたのは2025年9月です。
写真は、まだ荒道の段階だった頃の様子です。
ヘアピンカーブの外側にミズナラがあり、カーブの内側も含めて、最終的に3本のミズナラが作業道の支障となりました。
荒道開設の時点で伐採することもできましたが、すぐには伐りませんでした。
理由は、このミズナラをシイタケ栽培のホダ木として活用したかったからです。
ホダ木に利用するナラ類は、木が休眠期に入る秋から冬にかけて伐採するのが一般的です。
そのため、荒道を開設した9月の段階では木を残し、適期となる冬前まで待つことにしました。

2025年11月、ミズナラを伐採
2025年11月、残していた3本のミズナラを伐採しました。
幹はシイタケ栽培のホダ木に適した約1mの長さに玉切りし、ホダ木として利用しました。
作業道をつくるために伐った木でも、単に山に捨てるのではなく、できるだけ森林資源として活かしていく。
このミズナラについても、以前「山の木を活かす」シリーズで紹介したホダ木として活用しています。
そして、伐採後にはもう一つ試してみたいことがありました。
根株からの萌芽更新です。
萌芽更新を狙って、根株を路肩へ埋め戻す


ミズナラを伐採した後、根株をそのまま処分するのではなく、バックホーで作業道の路肩へ埋め戻しました。
目的は明確でした。
生きている根株から再び芽を出させることです。
ミズナラを含むナラ類には、伐採された後、切り株や根元から新しい芽を伸ばす性質があります。
これを「萌芽(ぼうが)」といい、その芽を次の世代の木として育てて森林を更新していく方法を「萌芽更新」と呼びます。
ただし、ここで一つ付け加えておきたいことがあります。
根株を路肩へ埋めることが「正解」というわけではありません
今回、私たちは萌芽更新を狙って、ミズナラの根株を路肩へ埋め戻しました。
一方、森林作業道づくりにおける根株の扱いについては、施工する人によって考え方や方法が異なります。
広葉樹の根株などを法面の基礎部分付近に利用し、萌芽や植生回復につなげる施工方法もあります。一方で、木質物はいずれ腐朽するため、盛土のどこに、どのような状態で配置するかについては、地形や土質、構造を見ながら慎重に判断する必要があります。
そのため、今回の記事は「根株を路肩へ埋めればよい」という施工方法を示すものではありません。
今回の現場では、地形や路肩の状態を確認したうえで、ミズナラの萌芽する力を活かせないかと考え、根株を埋め戻しました。
その結果、約9か月後に実際に萌芽を確認することができました。
そして翌夏、新しい芽が出てきました

2026年8月。
作業道を確認していると、路肩に残した根株から緑色の新しい芽が伸びていました。

一つだけではありません。
切り株の周囲から、何本もの芽が伸びています。

まだ小さな芽ですが、伐採から約9か月を経ても根株から新しい芽が伸び、再び地上部をつくろうとするミズナラの生命力が感じられます。
当初から萌芽更新を狙って根株を路肩へ埋め戻していたため、意図したとおりの萌芽を実際に確認することができました。
伐ることが、森を再生させていた時代
萌芽更新は、特別に新しい森林管理の方法ではありません。
むしろ、かつての日本の里山では、ごく普通に繰り返されてきた森林の利用と再生の仕組みでした。
コナラやクヌギなどの広葉樹は、薪や炭などの原木として繰り返し利用されてきました。
木を伐ることは、森林をなくすことではありませんでした。伐採した株から萌芽した新しい枝を育て、成長した木を再び利用することで、森林を更新しながら資源を得ていたのです。
伐る → 使う → 萌芽する → 育つ → また使う。
人が森林を利用することと、森林が次の世代へ更新することが、一つの循環になっていました。
林野庁も、里山の広葉樹林がかつて薪炭材などとして繰り返し利用されてきた一方、利用の減少によって広葉樹の伐採量が大きく減り、現在では利用されなくなった里山林の高齢化・大径化が進んでいることを指摘しています。
「木を伐らない」だけでは守れない森もある
石油やガス、電気などが暮らしのエネルギーの中心になるにつれて、薪や炭をつくるために里山の広葉樹を伐る機会は大きく減りました。
森林を伐らなくなったことで、一見すると自然に戻ったようにも見えます。
しかし、人が繰り返し利用することによって維持されてきた森林では、利用されなくなったことで別の問題も生まれています。
その一つが、ナラ類の高齢化・大径化です。
そして現在、全国で問題となっているのが「ナラ枯れ」です。
ナラ枯れは、カシノナガキクイムシが樹木に入り込み、ナラ菌を媒介することによって起こります。
単純に「木が老齢になったから枯れる」というものではありません。
林野庁は、里山林の利用減少によって高齢化・大径化したナラ類が増えたことを、ナラ枯れ被害が拡大する要因の一つとして挙げています。
そのため、広葉樹資源を利用しながら森林を更新していくことも、里山林を健全に維持していくための重要な選択肢になっています。
だからこそ、
木を伐らないことだけが、森林を守ることではありません。
森林の状態を見ながら適切に伐り、その木を資源として利用し、次の世代の木を育てていく。
それも森林を持続させる大切な方法の一つです。
一本の根株から見える、森林の循環

今回萌芽したミズナラは、まだ森林を更新したと言える段階ではありません。
萌芽した芽がすべてそのまま成木になるわけでもありません。
これから芽がどのように伸びるのか、競合する植生や周囲の木との関係はどうなるのか。
継続して見ていく必要があります。
それでも、
作業道開設の支障木として伐採した木をホダ木として使い、その根株から次の木を育てる。
そこには、かつて里山で繰り返されていた森林利用の小さな循環を見ることができます。
100年後の森を考えながら

自伐型林業では、一度伐採して終わりではなく、同じ森林に繰り返し入りながら木を育て、森林を長い時間軸で管理していきます。
作業道もそのための基盤です。
今回のミズナラの萌芽は、とても小さな出来事です。
しかし、その小さな芽の中に、森林が持つ再生する力を見ることができます。
伐ること。
使うこと。
そして、また育てること。
今回のミズナラは、幹をホダ木として活用し、根株からは次の世代につながる新しい芽が伸び始めました。
一本の木を、伐って終わりにしない。
「山の木を活かす」とは、木材として利用することだけではなく、森林が持つ再生する力を活かし、次の森へつないでいくことでもあると考えています。
このミズナラがこれからどのように育っていくのか、今後も作業道を通るたびに見守り、その変化を記録していきます。
この記事の執筆・監修
久保谷 幸雄|林業家
一般社団法人 安芸太田町自伐型林業を推進する会 監事
広島市出身。2020年から自伐型林業に取り組み、2022年に脱サラして専業の林業家に。広島県安芸太田町を拠点に、森林作業道づくり、間伐、伐倒・造材・搬出、森林資源の活用を実践しています。
自伐型林業歴:6年|森林作業道の作設実績:6,500m超
愛機:STIHL MS 500i/MS 201 C-M
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山の木を活かすシリーズ
一本の木を、どこまで活かせるか。
① 製材編|コナラを板材として活かす
② ホダ木編|コナラをシイタケ原木として活かす
③ 炭焼き編|コナラとヤマザクラを木炭として活かす
④ 枝利用編|ヤマザクラとコナラの枝を手すり・道具の取っ手として活かす
⑤ 雪害木編|チェーンソーミルで山の木を柱や梁などの構造材として活かす
⑥ 薪編|出荷できないヒノキも燃料として活かす
⑦ 萌芽更新編|ミズナラを伐って、使って、また育てる
⑧ 森林循環編|立ち枯れ木を森へ還す
⑨ 薪づくり編|支障木のミズナラとリョウブを薪として活かす
同じ一本の木でも、太さや形、品質によって活かし方は変わります。
私たちは、山で育った木をできる限り無駄なく活かし、
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