【山の木を活かす⑧】伐って、使わず、森へ還す|立ち枯れ木から考える森林の循環

山の木を活かす方法は、木材や薪、炭などとして利用することだけではありません。

枯れた木を森林の中に残し、長い時間をかけて自然に還していくことも、森林の循環の一つです。

2026年8月、安芸太田町寺領の施業地で、安全確保のため、立ち枯れていたマツ13本とサクラ4本を伐採しました。

多くは以前から枯れていた木で、特にマツは腐朽が進み、伐倒途中や地面に倒れた瞬間に幹が折れるものもありました。

今回は、立ち枯れ木を伐採する難しさと、伐採した木をあえて搬出せず、森の中に残す意味について考えてみます。

施業地に残っていた立ち枯れ木。周囲にはスギやマツ、広葉樹などさまざまな樹種が生育しています。


立ち枯れ木は「枯れているから簡単に伐れる」わけではありません

立ち枯れ木の伐採には、生きた木とは違った難しさがあります。

生きた木であれば枝葉や樹冠の重量、木の傾きなどを確認しながら伐倒方向を判断できます。

一方、長期間立ち枯れた木では枝葉がすでに落ちていることが多いうえ、幹や根元の内部で腐朽が進んでいる場合があります。

外見だけでは内部の状態を判断しにくく、伐倒の途中で幹が折れたり、枯れ枝や梢が落下したりする危険もあります。

今回のマツでも、伐倒途中や地面に接触した瞬間に幹が折れたものがありました。

「枯れているから簡単に伐れる」のではなく、立ち枯れ木だからこそ慎重な判断が必要です。

立ち枯れ木が点在する施業地。周囲の立木や地形を確認しながら伐倒方向を判断します。


マツ13本、サクラ4本の立ち枯れ木を伐採

今回伐採したのは、立ち枯れていたマツ13本とサクラ4本です。

マツの多くは以前から枯れていたとみられ、腐朽がかなり進んでいました。

樹皮が簡単に剥がれるものや、幹がもろくなっているものが多く、昆虫によるものとみられる孔も確認できました。

一方、樹皮がしっかり残り、材が健全で硬い状態のマツはありませんでした。

伐採して初めて分かる腐朽の状態もあり、立ち枯れ木の状態を一律に判断することの難しさを感じます。

伐採した立ち枯れ木。腐朽が進んだ木では、伐倒時の衝撃で幹が折れるものもありました。


伐採した木を、あえて森に残す

今回伐採した木の多くは、搬出せず林内に残しています。

木材として利用することだけが、山の木を活かす方法ではないと考えているからです。

立ったままの枯死木は、地面から離れている部分では乾燥しやすく、樹種や環境によっては長期間その姿を残します。

一方、地面に倒れた木は土壌や落葉層と接触し、湿り気を保ちやすい環境になります。

樹種や太さ、周囲の環境によって違いはありますが、菌類や微生物、昆虫などが関わりながら、長い時間をかけて少しずつ腐朽・分解されていきます。

すぐに土になるわけではありません。

数年、数十年という時間をかけながら姿を変え、森林の中を循環していきます。

林床に残した伐倒木。土壌や落葉層と接しながら、長い時間をかけて腐朽・分解されていきます。


枯れた木も森林の一部

倒木や枯死木は、単に利用できなくなった木ではありません。

腐朽していく過程では、菌類や昆虫などさまざまな生物が関わります。

やがて木は形を失い、有機物として森林の中へ還っていきます。

森林では、木が育ち、枯れ、倒れ、分解されるという長い循環が繰り返されています。

木材として山から持ち出して利用すること。

そして、森林の中に残して自然の循環に委ねること。

どちらも、木の状態や森林の状況に応じた「活かし方」の一つです。

林内に残した枯死木。倒木も時間をかけて腐朽し、森林生態系の一部になっていきます。


ただし、マツクイムシ被害木は別に考える必要があります

ここで注意しなければならないのが、マツの立ち枯れ木です。

一般に「マツクイムシ被害」と呼ばれているものは、主にマツノマダラカミキリによって運ばれるマツノザイセンチュウがマツの樹体内へ侵入し、マツを枯死させる「マツ材線虫病」です。

今回の施業地周辺でもマツの立ち枯れが増えており、被害の広がりを感じています。

樹皮が剥がれ、材の腐朽が進み、昆虫によるものとみられる孔も確認できる状態でした。

しかし、マツの枯死木であれば何でもそのまま林内に残してよい、ということではありません。

新たに枯れたマツなどは、マツノマダラカミキリの産卵・繁殖場所となり、翌年以降の被害拡大につながる可能性があります。

そのため、マツクイムシ被害が発生している森林では、枯死した時期や木の状態、周囲の被害状況などを確認し、必要に応じて破砕やくん蒸などの防除を行うことが重要です。

今回のような古い枯死木についても、単に「自然に還す」という視点だけではなく、病虫害防除の視点を持って判断していく必要があります。

腐朽が進んだマツの枯死木。マツについては森林内の循環だけでなく、マツ材線虫病の被害拡大防止という視点からも扱いを考える必要があります。


「使う」だけではない、山の木の活かし方

これまで「山の木を活かすシリーズ」では、製材、ホダ木、炭、薪、構造材など、山から伐り出した木をさまざまな形で利用する取り組みを紹介してきました。

しかし、山の木をすべて人が利用しなければならないわけではありません。

木材として利用できるものは利用する。

森林の中に残す意味があるものは残す。

そして、病虫害の拡大につながる可能性があるものは、必要な対策を行う。

木の一本一本の状態と森林全体を見ながら、どう扱うかを判断することが大切だと考えています。

枯れた木も、森林の長い時間の中では「終わり」ではありません。

倒木となり、腐朽し、さまざまな生物に利用されながら、少しずつ森林の一部へと還っていきます。

「山の木を活かす」とは、人が木を利用することだけではなく、森林の中で次の循環へつなぐことでもあります。

これからも、木を伐ること、使うこと、そして森に残すことを考えながら、地域の森林と長く付き合っていきます。


この記事の執筆・監修

久保谷 幸雄|林業家
一般社団法人 安芸太田町自伐型林業を推進する会 監事

広島市出身。2020年から自伐型林業に取り組み、2022年に脱サラして専業の林業家に。広島県安芸太田町を拠点に、森林作業道づくり、間伐、伐倒・造材・搬出、森林資源の活用を実践しています。

自伐型林業歴:6年|森林作業道の作設実績:6,500m超
愛機:STIHL MS 500i/MS 201 C-M

山の木を活かすシリーズ

一本の木を、どこまで活かせるか。

① 製材編|コナラを板材として活かす
② ホダ木編|コナラをシイタケ原木として活かす
③ 炭焼き編|コナラとヤマザクラを木炭として活かす
枝利用編|ヤマザクラとコナラの枝を手すり・道具の取っ手として活かす
雪害木編|チェーンソーミルで山の木を柱や梁などの構造材として活かす
薪編|出荷できないヒノキも燃料として活かす
萌芽更新編|ミズナラを伐って、使って、また育てる
森林循環編|立ち枯れ木を森へ還す
薪づくり編|支障木のミズナラとリョウブを薪として活かす

同じ一本の木でも、太さや形、品質によって活かし方は変わります。

私たちは、山で育った木をできる限り無駄なく活かし、
森の価値を未来へつないでいきたいと考えています。

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