【森と生きる人 #02】森を育て、木を活かす仕事|久保谷幸雄

広島市で生まれ、太田川の水を飲んで育ちました。

今、その上流にある安芸太田町で、森に入り、道をつくり、木を伐り、活かす仕事をしています。

学生時代、研究室の教授が言った言葉を今でも覚えています。

「これからは通信販売と環境、美と健康だ」

1993年、今から33年前のことです。

その後、企業での業務改革やコンサルティングなどを経験した後、18年間、国政に関わる仕事に携わりました。上司が国会の環境委員会に所属したことをきっかけに、環境問題について考える機会が増え、いつか自分自身も環境に関わる仕事がしたいという思いが、少しずつ形になっていきました。

森林作業道に立ち、森を見上げる久保谷幸雄
森林作業道の上で森を見上げる。山に入り、森の状態を見ながら施業を考えることが日常になった。

自伐型林業との出会い

2020年10月、政府が「2050年カーボンニュートラル」を掲げ、脱炭素社会の実現を目指す方針を示しました。

SDGsという言葉も広く知られるようになり、環境と社会、そして経済をどう両立させていくかが、身近な課題として語られるようになった頃です。

同じ年の10月、安芸太田町で開かれた自伐型林業の講演を聞く機会がありました。

小さな機械と小さな作業道で山に入り、一度に伐り尽くすのではなく、少しずつ木を伐りながら森を育てていく。そして、山を守ることを仕事として成り立たせていく。

「これなら、環境保全と地域への貢献を両立できるかもしれない」

そう感じたのが、自伐型林業に取り組むきっかけでした。

環境保全も、続けていくためには仕事として成り立つことが大切です。若い人たちが将来の仕事の一つとして選べるような林業にできないか。まずは自分自身でやってみようと考えました。

退職するまでに、自分で確かめてみる

2022年7月に、それまでの仕事を退職することは決めていました。

そこで、それまでの約2年間で、自伐型林業を本当に自分の仕事にできるのか、実際に山に入って確かめてみることにしました。

2020年12月にはバックホーを購入。すでに安芸太田町で自伐型林業に取り組んでいた仲間に教わりながら、森林作業道づくりを始めました。

翌2021年には、安芸太田町で森林作業路の開設を支援する補助制度も始まりました。仕事の合間に山へ通い、少しずつ経験を重ねました。

バックホーで森林作業道をつくる久保谷幸雄
自伐型林業に取り組み始めた頃の森林作業道づくり。バックホーの操作や道づくりの技術を、教わりながら現場で身につけていった。

そして2022年7月、18年間勤めた仕事を退職。翌8月から、専業の林業家として山に入る生活を始めました。

3年間、ひたすら山に入る

専業になってからの3年間は、何よりも技術を身につけることを優先しました。

年間250日以上、山に入る。

作業道をつくり、木を伐り、搬出する。

毎年安芸太田町で行われる作業道研修でも学び、現場では自分で試し、うまくいかなければ直す。同じ山に繰り返し入りながら、その積み重ねを続けました。

これまでに開設した森林作業道は、6,500mを超えました。

安芸太田町の森林でバックホーを操作し森林作業道を開設する久保谷幸雄
森林作業道を開設する。専業になってからの3年間は、年間250日以上山に入り、現場で試行錯誤を重ねながら技術を身につけてきた。

技術を身につけることと同時に、林業を仕事として続けていく難しさも感じました。

山に入れば、すべてが収入につながるわけではありません。市場に出しにくい木もあり、雨が降れば山でできる作業も限られます。山の仕事は天候や木の状態にも左右されます。

だからこそ、木を伐って出荷するだけでなく、山から出てくる木をできるだけ活かす方法も考える必要がありました。

山の木を、できるだけ活かす

チェーンソーミルで山の木を製材し、その材を使って屋根のある作業小屋をつくりました。雨の日には、そこで薪をつくることができます。

広葉樹はホダ木にしてシイタケ栽培にも挑戦しました。炭焼きの集まりにも参加し、炭づくりも経験しました。

製材、薪、ホダ木、炭、木工。

小型製材機で丸太を製材する様子
山から出した木を板材として活かすための製材。木を「伐る」だけでなく、「使う」ことにも取り組んできた。
屋根のある作業小屋で薪を並べた様子
雨の日にも取り組める薪づくり。市場に出しにくい木も、できるだけ無駄にせず活かしていく。
地域の炭窯で炭づくりに取り組む様
地域の炭焼きにも参加。山の木を活かす方法を知るため、さまざまな取り組みを実際に試してきた。

現在このホームページで紹介している「山の木を活かす」シリーズは、こうして自分自身が山で試してきた取り組みをまとめたものです。

木材市場で値段が付く木だけが、山の価値ではありません。

曲がった木も、枝も、作業の支障になって伐った木も、使い方によっては資源になります。

山に入り続ける中で、森林を整備することと、そこで生まれた木を活かすことは、一つにつながっていると感じるようになりました。

実践する側から、伝える側へ

2026年2月、これまで一緒に活動してきた仲間と、一般社団法人安芸太田町自伐型林業を推進する会を設立しました。

6月からは安芸太田町の自伐型林業普及促進事業を受託し、研修や施業地確保に取り組んでいます。ホームページやFacebookページでの情報発信も、自分たちで始めました。

施業地見学会で参加者に森林作業道について説明する久保谷幸雄
施業地見学会で、参加者に森林作業道や森の状態を説明する。2026年からは、現場での実践に加えて、伝える活動にも取り組んでいる。

ただ、自分自身が山に入ることをやめるつもりはありません。

技術を伝えるにも、林業の可能性を語るにも、自分たちが現場で実践し続けていることが大切だと思っています。

自伐型林業を始めて6年。まだ分からないことも、やってみたいこともたくさんあります。

33年前、学生だった自分が聞いた「これからは環境」という言葉。

ずいぶん遠回りをしましたが、今、自分は山の中でその仕事をしています。

森を育て、木を活かし、それを地域の仕事につなげる。

自分が山に入り続けることと、そこで得たものを次の人に伝えること。その両方を続けながら、森を育て、次の世代も関わり続けられる形を少しずつつくっていきたいと思っています。

これからも、目の前の山で一つひとつ積み重ねていきます。

森林作業道に立ち、森を眺める久保谷幸雄
森林作業道に立ち、森を見る。現場での実践を続けながら、一つひとつ積み重ねていく。

文:久保谷幸雄

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