【森と生きる人 #01】家族の山を、自分の手で未来へつなぐ|藤堂幸男さん
「100年後に見たときにも、いい道だと感じてもらえるものにしたい。」
安芸太田町平見谷に、藤堂幸男さんの家族が所有する山があります。祖父の代まで家族が暮らし、父もこの地で生まれ育ちました。
2024年に自伐型林業研修へ参加し、翌2025年6月には安芸太田町地域おこし協力隊の自伐型林業分野に着任した藤堂さん。
家族の山を自分の手で整え、次の世代へつないでいきたい。その思いと、山に向き合う今を聞きました。

家族のルーツがある平見谷
藤堂さんは広島市出身。約10年前から安芸太田町で農業に携わり、現在も地域おこし協力隊の活動と並行して農業を続けています。
平見谷には祖父の代まで家族が暮らし、父も中学生までこの地で生活していました。藤堂さん自身も、幼い頃には家族と一緒に山へキノコを採りに来ていたといいます。
「自分にとって平見谷は、一族の山、故郷の山という感覚でした」
子どもの頃から、平見谷の山は身近で特別な存在でした。
ただ、その頃は自分が林業に関わることになるとは考えていませんでした。

2022年、家族の山があることを知る
転機の一つは2022年でした。
かつて家族が暮らしていた山とは別に、平見谷に家族所有の山林があることを知ります。
約5ヘクタール。主にコナラなどが生える広葉樹の山です。
一方で、かつて家族の住居があった共同保有の山が皆伐された姿を目にしたことも、強く心に残りました。
「もう元には戻らないように感じて、ショックでした」
家族につながってきた山を、この先どうしていくのか。
その思いが自伐型林業と結びつくのは、もう少し後のことでした。

自伐型林業との出会い
藤堂さんが自伐型林業の研修を最初に調べたのは2023年。しかし、その年の研修はすでに終了していました。
翌2024年、地域で配布されたチラシをきっかけに研修へ参加します。
当初関心があったのは、チェーンソーや伐倒、造材、搬出でした。
作業道づくりについては、
「正直、最初は受けるつもりがなかったんです」
と振り返ります。
それでも参加した作業道研修で、山の見方が大きく変わりました。
「山を活かすために道をつける、という考え方に衝撃を受けました」
それまで山に道を入れることには、森林を大きく伐採するようなイメージもあったといいます。
しかし研修で知ったのは、森林を長く管理し続けるための道でした。
木を伐ることについても同じでした。
「木を伐ると自然を壊しているように見えるかもしれない。でも、適切に木を伐ることが森を守ることにつながる。道も同じなんだと思いました」
研修参加者から、地域おこし協力隊へ
研修を受けた翌年の2025年6月、藤堂さんは安芸太田町地域おこし協力隊の自伐型林業分野に着任しました。
現在は一般社団法人安芸太田町自伐型林業を推進する会に所属し、町内の森林で作業道づくりや伐倒、造材、搬出などに取り組んでいます。

作業道づくりでは、岩盤をエンジン式コンクリートブレーカーやツルハシで掘削することもありました。
重機やチェーンソーを使う山の仕事は、常に危険も伴います。
「肉体的に大変な作業もありますが、それ自体はあまり苦にならないんです」
一方、仕事の手応えを強く感じた場面もありました。
自分も整備に関わった森林の施業地見学会に山林所有者が家族で参加し、整備された山を見て喜んでくれたときです。
「自分が施業した結果を山主さんに見てもらって、喜んでもらえた。仕事として分かりやすいし、やりがいを感じた瞬間でした」

「道をつけると、山の解像度が上がる」
研修と実践を重ねるなかで、藤堂さんの山の見方も変わってきました。
「道をつけることで、山の解像度が上がるんです」
道が入ることで、一本一本の木との位置関係や樹種、森の明るさ、手を入れた場所が具体的に見えてくる。
藤堂さんは、それを、
「山の中に住所、アドレスがついていくような感じ」
と表現します。
道があるから山へ入り、見て、手を入れ続けることができる。
藤堂さんにとって作業道は、木材を運ぶためだけではなく、人が森と関わり続けるための基盤でもあります。
100年後にも「いい道だ」と思ってもらえるように
家族が所有する平見谷の山で、藤堂さんがまず考えているのは、作業道を入れ、山の中を見て回り、継続して管理できる状態にすることです。
「100年後に見たときにも、いい道だと感じてもらえるものにしたい」
自分たちの世代だけが使う道ではなく、その先の世代も山へ入り、必要な手入れを続けていける道。
林業をする人だけでなく、人が山で学び、自然に親しめる場所にもしていきたいと考えています。
10年後には、約5ヘクタールの山全体を見に行き、管理できる状態にすることが目標です。
地域おこし協力隊の任期後も、平見谷を拠点に森づくりを続けたいといいます。
「自伐型林業にも、平見谷に合ったやり方があると思うんです。そこはこれから模索していきたい」
そして、その先にあるテーマをこう話します。
「森に人が入る文化をつくっていきたい」
「山があって良かった」と思えるように
山を所有していても、どこから手をつければいいのか分からず、管理を負担に感じている人は少なくありません。
藤堂さん自身も、家族の山の存在を知ったところから始まりました。
同じように山を持ちながら一歩を踏み出せずにいる人へ、
「まずは、自伐型林業で施業した山を見に来てみてほしいですね」
と話します。
藤堂さんは、山は思っているほど「負の遺産」ではなく、関わり方によっては「山があって良かった」と思えるものにできると考えています。
そして最後に、こう呼びかけました。
「気になった方は、ぜひ安芸太田の森を見に来てください」
藤堂幸男さん プロフィール
藤堂 幸男(とうどう ゆきお)さん
広島市出身。
約10年前から安芸太田町で農業に携わる。
2024年10月、安芸太田町の自伐型林業研修に参加。
2025年6月、安芸太田町地域おこし協力隊(自伐型林業分野)に着任。
現在は一般社団法人安芸太田町自伐型林業を推進する会に所属し、作業道づくり、伐倒・造材・搬出など、自伐型林業の普及と実践に取り組んでいる。
趣味は登山。

取材・文:久保谷幸雄
山林をお持ちの方へ
・壊れにくい作業道は、山の価値を大きく左右します。
・作業道づくり・森林整備のご相談を受け付けています。
林業を始めたい方へ
・作業道づくりの見学・研修を開催しています。
・初心者の方でも参加可能です。
