【壊れない作業道シリーズ⑪】抜根技術|根の張り方を読み、効率よく根株を抜く
作業道のルート上にある支障木を伐倒した後に行う作業が「抜根」です。
しかし、抜根はただ根株の周囲を掘り、力任せに引き抜けばよい作業ではありません。
根の状態を確認せずに掘り続けると、
・作業に時間がかかる
・燃料を余計に使う
・バックホーに大きな負担がかかる
・必要以上に地山を崩す
といったことにつながります。
当会では、まず根株の周囲を掘って根を露出させ、どの方向に強く張った根があるか、どこが比較的弱いかを確認してから抜根を進めます。
この記事では、安芸太田町で作業道を施工してきた経験をもとに、「根を読む抜根技術」を紹介します。
抜根は「力仕事」ではなく「根を読む作業」
木は、地中へ伸ばした根によって斜面に立っています。
そのため、大きな根株をバックホーの力だけで動かそうとしても、太い根が強く効いていれば簡単には抜けません。
重要なのは、最初から力を掛けることではなく、まず周囲の土を取り除いて根の状態を確認することです。
どの方向に太い根が伸びているのか。
どの根が強く効いているのか。
反対に、根が少なく比較的弱い部分はどこなのか。
こうした状態を見ながら、抜根する方向や掘る場所を判断します。
抜根とは、「どこを掘り、どの根を処理すれば根株が動くのか」を読む作業です。
樹種による根の張り方|現場で感じる傾向
根の張り方は、樹種、土質、傾斜、岩の位置、水分条件、周囲の立木などによって変わります。
そのため、すべての木に当てはまる決まった形があるわけではありません。
一方、当会が安芸太田町の山林で抜根を繰り返してきた経験では、斜面に生えている木について、ある程度の傾向を感じています。
・スギ・ヒノキなどの針葉樹
谷側に強く張った根があることが多い
・ナラ・サクラなどの広葉樹
山側に強く張った根があることが多い
これは、あくまで当会の施工経験から感じている傾向です。
同じ樹種でも、現場条件によって根の張り方は大きく異なります。
そのため、樹種だけで根の位置を決めつけるのではなく、掘り始める場所や根の状態を予測するための一つの手掛かりとして考えています。
最終的には、実際に周囲を掘り、露出した根を見て判断します。
根の深さにも樹種による傾向がある
根の深さについても、当会の抜根経験では樹種によって違いを感じています。
経験的な傾向としては、
・マツ:比較的深い位置まで太い根が入っていることが多い
・スギ:マツほどではないものの、比較的しっかりした根が見られる
・ヒノキ:比較的浅い位置に根が広がっていることが多い
という印象があります。
特に大きなマツは、深い位置まで太い根が効いていることがあり、抜根に時間がかかります。
当会の経験では、根元直径50cmを超えるようなマツでは、半日から1日程度を要することもあります。
ただし、これも樹種だけで決まるものではありません。
土質、岩盤、土層の厚さ、水分条件、生育環境などによって根の深さや張り方は変わります。
あくまで経験上の目安として考え、実際の根の状態を確認しながら施工します。
実例①|マツとコナラの根が絡み合ったケース

これまでの施工で特に時間がかかったのが、マツとコナラの根が絡み合っていたケースです。
根株そのものだけでなく、周囲の木の根との関係によって抜根の難易度は大きく変わります。
この現場では、
・根株の周囲を掘って根を確認
・処理しにくい根はチェーンソーも併用
・バックホーで根株を少しずつ動かす
という作業を繰り返しました。
最終的に抜根には約1日を要しました。
抜根では、根株の大きさだけを見るのではなく、周囲の木の根とどのようにつながっているかを見ることも重要です。
実例②|根元直径約45cmのアカマツ


写真のアカマツは、
・根元直径:約45cm
・斜面方向へ曲がって成長していた木
です。
根株の周囲を掘って確認すると、谷側へ太い根が2本強く張っていました。
まず周囲の土を取り除き、根の方向を確認します。
そのうえで、必要な箇所へチェーンソーで切り込みを入れながら、バックホーで少しずつ根株を動かしていきました。
作業時間は約2時間30分でした。
根の位置を確認せずに根株全体を力だけで動かそうとすると、必要以上に広い範囲を掘ることになります。
太い根がどちらへ伸びているのかを確認してから作業することが、抜根を効率よく進めるポイントです。

抜根したアカマツ。写真右下側に、斜面下側へ強く張っていた太い根が見える
抜いた根株を見ると、斜面下側へ伸びていた太い根を確認できます。
現場で土の中にある状態では根全体を見ることはできません。
だからこそ、周囲を少しずつ掘りながら、どの根が強く効いているのかを見極めていくことが重要です。
抜根の基本手順
① 周囲の土をしっかり除去する
まず根株の周囲から掘り始め、根の状態が見えるように土を取り除きます。
ここを省いて根株を力だけで動かそうとすると、どの根が効いているのか分からず、必要以上に掘ったり、バックホーへ大きな負荷を掛けたりします。
抜根では、まず根を見える状態にすることが重要です。
② 根の方向を読む
周囲の土を取り除いたら、
・どの方向に太く強く張っている根があるか
・斜面に対してどちら側の根が強く効いているか
・反対に、根が少なく比較的弱い部分はどこか
を確認します。
根の張り方は一様ではありません。
実際に露出した根を見ながら、どこから作業を進めれば根株が動きやすくなるかを判断します。
③ 弱い部分から攻める
根株を強く支えている根へ、最初から正面から力を掛けるのではありません。
当会では、まず根が少ない部分や比較的弱い部分をしっかり掘り、根株の周囲に空間をつくります。
その空間を突破口にして根株を少しずつ動かすと、まだ強く効いている根が分かってきます。
そこから、次に処理する根を判断します。
強い部分へ力任せに挑むのではなく、弱い部分から崩していくことが抜根の基本です。
④ 必要に応じてチェーンソーを使う
バックホーだけでは処理しにくい太い根は、必要に応じてチェーンソーで切り込みを入れます。
どこまで切り込みを入れるか、完全に切断するかどうかは、根の太さ、方向、根株の状態などによって異なります。
そのため、実際の状態を確認しながら現場で判断します。
切り株を高く残し、てこの力を利用する
根曲がりなどによって根元部分を木材として利用しない場合は、伐採時に切り株をある程度高く残すことがあります。
切り株が長く残っていれば、バックホーで押したり引いたりしたときに、てこの作用を利用できます。
上の実例はいずれも根曲がりがあり、根元部分を高めに残して抜根しています。
ただし、すべての木を高切りにするわけではありません。
木材として利用する部分や、安全に伐倒・抜根できるかどうかを考えて判断します。
機械を壊さないための注意点
抜根は、バックホーに大きな負荷がかかりやすい作業です。
特に避けたいのは、
・力任せに根株を引き抜く
・太い根を無理にこじる
・見えていない根へバケットを強く突っ込む
といった操作です。
根株の向こう側から攻める方法もある
根株の形や作業道の位置によっては、一方向から作業を続けるより、いったん根株を通り過ぎて、向こう側から別の角度で作業した方がやりやすい場合があります。
これは抜根だけでなく、岩盤掘削などでも使っている考え方です。
一方向から行き詰まった場合は、その場で無理に作業を続けるのではなく、機械の位置を変えて別の方向から根を見ることで、状況を打開できることがあります。
関連記事:
「【壊れない作業道シリーズ⑬】岩盤掘削施工|時間はかかるが崩れにくい道をつくる」
特に注意したいのは「根の下側」
根株の裏側や向こう側へ回り込んで作業すること自体に問題があるわけではありません。
注意が必要なのは、根の下側へバケットを入れて土をすくうときです。
根株へ機械を近づけすぎたり、根の下へ深くバケットを入れたりすると、
・油圧配管
・油圧シリンダー
・ブームやアーム
などを根株や太い根へ接触させることがあります。
根の下側を処理するときほど、バケットだけでなく機械各部の位置を確認し、無理に根株を抱え込むような操作をしないことが重要です。
排土板を使って機体を安定させながら作業することもあります。
チェーンソーで根を切るときの注意
チェーンソーで根を処理するときに重要なのが、切る前に土をしっかり取り除くことです。
根には土や小石が付着しています。
そのままソーチェーンを当てると、刃が急激に切れなくなります。
チェーンソーを使用するときは、
・切る部分の土を十分に取り除く
・石がないことを確認する
・根株が不用意に動かない状態で作業する
ことが重要です。
根を切る作業そのものよりも、切る前の準備が作業効率を大きく左右します。
抜いた根株を路肩に活かす
当会では、抜根した根株をすべて山林内へ移動するのではなく、現場条件によっては路肩側の盛土に埋めて活用する施工を行っています。
特に大きな根株は、路肩側へ配置したうえで、その周囲へ土を入れ、しっかり締め固めます。
これは、当会が自伐型林業の現場で指導を受け、実際に取り入れている施工方法の一つです。
根株は永久にそのまま残るものではなく、時間の経過とともに徐々に朽ちていきます。
当会では、その間に周囲の土が落ち着き、植生が回復して根が張っていくことも見込みながら、地形や盛土の状態を見て利用しています。
すべての根株を同じように使うのではなく、
・根株の大きさ
・配置できる場所
・路肩や盛土の形状
・周囲の地形
などを見ながら判断します。


施工後は、根株の周囲まで土を締め固め、路面と路肩を仕上げています。
根株を利用すること自体が目的ではありません。
現場で発生したものを活かしながら、長く使い続けられる道にすることを重視しています。
コラム|東京駅を支えた松杭
マツが基礎材として使われた有名な例に、東京駅丸の内駅舎があります。
JR東日本の資料によると、東京駅丸の内駅舎では、創建以来、約11,000本の松杭が駅舎を支えていました。保存・復原工事では、これらの松杭を撤去して地下部と新たな免震構造がつくられています。
約100年にわたって建物を支えた松杭は、木が構造物に使われてきた歴史を考えるうえでも興味深い事例です。
もちろん、地下深くに打ち込まれた東京駅の松杭と、森林作業道の路肩に利用する根株では、置かれる環境も使い方も異なります。
そのため、この事例をそのまま根株の耐久性の根拠とするものではありません。
ここでは、マツがかつて大規模な建築物の基礎にも使われていた事例として紹介します。
まとめ
抜根は、単に根株を取り除く作業ではありません。
まず周囲を掘って根を見える状態にし、
・どの方向に強く張った根があるか
・どこが比較的弱いか
・どの方向へ根株を動かせばよいか
を確認します。
そして、弱い部分から空間をつくり、強く効いている根を一つずつ処理していきます。
一方向から難しければ、機械の位置を変えて別の角度から攻めることもあります。
必要に応じてチェーンソーも使いますが、重要なのは力任せに抜くことではなく、根の状態を見ながら作業の順番を組み立てることです。
根を読むことで、作業時間や機械への負担を抑え、必要以上に地山を動かさない施工につながります。
抜根も、長く使い続けられる作業道をつくるための重要な施工技術の一つです。
「壊れない作業道」について
本サイトでは、地形や水の流れを読み、必要最小限の切土・盛土とこまめな分散排水などによって、崩れにくく長く使い続けられる森林作業道を「壊れない作業道」と表現しています。
これは「絶対に壊れない」という意味ではありません。
地形・土質・降雨・施工条件などによって状況は異なるため、現場条件に合わせた施工と、完成後の点検・維持管理が必要です。
参考資料
この記事の執筆・監修
久保谷 幸雄|林業家
一般社団法人 安芸太田町自伐型林業を推進する会 監事
広島市出身。2020年から自伐型林業に取り組み、2022年に脱サラして専業の林業家に。広島県安芸太田町を拠点に、森林作業道づくり、間伐、伐倒・造材・搬出、森林資源の活用を実践しています。
自伐型林業歴:6年|森林作業道の作設実績:6,500m超(2026年9月現在)
愛機:STIHL MS 500i/MS 201 C-M
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