【壊れない作業道シリーズ⑧】洗い越し施工|水の通り道を無理に止めない
森林作業道をつくるとき、避けて通れないのが「水」です。
特に、小さな沢や谷地形、水みちを横断する場所では、もともと流れていた水を作業道によって塞がないことが重要です。
そこで使うのが、洗い越し(あらいごし)です。
洗い越しは、水をパイプの中へ閉じ込めるのではなく、路面より低い通水面をつくり、水を作業道の上から安全に横断させる構造です。
この記事では、安芸太田町で実際に施工した事例をもとに、洗い越しの考え方と施工のポイントを紹介します。
※森林作業道の施工方法は、地形・地質・土質・水量・集水範囲・気象条件などによって異なります。本記事では、自伐型林業の現場で実践している考え方を中心に、林野庁・広島県の資料も踏まえて紹介します。
洗い越しとは?
まずは実際の洗い越しをご覧ください(約12秒)
沢の水が、作業道を横切ってそのまま下流へ流れています。
洗い越しでは、水を無理に止めたり、長い距離を道に沿って流したりせず、もともとの水の通り道をできるだけ残したまま作業道を横断させます。
広島県の森林作業道作設指針でも、小渓流の横断では原則として洗い越し施工とし、路面より低い通水面を設けて、水が集中しすぎないよう流す考え方が示されています。
なぜ水の通り道を残すのか
沢や谷地形には、普段から水が流れている場所だけでなく、雨が降ったときだけ水が集まる場所があります。
ここを作業道で塞いでしまうと、水が行き場を失い、
- 路面を長く流れる
- 路体へ入り込む
- 盛土や路肩を削る
- 一か所へ集中して下流を侵食する
といった問題につながります。
だからこそ重要なのは、水を止めることではなく、
「どこから来た水を、どこへ流すのか」
を地形の中で考えることです。
洗い越しは、その水の通り道を残すための方法の一つです。
洗い越し施工の基本
① 水の通り道を施工前に確認する

作業道をつくる前に、
- 水がどこから来ているか
- どこへ流れているか
- 雨のときにどこまで水が増えるか
- 下流側が安定しているか
を確認します。
普段は水量が少なくても、地形を見ると雨のときに水が集まる場所が分かることがあります。
まず水の流れを読み、その上で作業道の横断位置を決めます。
② できるだけ水の流れを短く横断する
自伐型林業の現場では、沢や水みちに対して、作業道をできるだけ直角に近い形で入れることを基本にしています。
斜めに長く横断すると、水が路面に沿って流れやすくなるためです。
地形上、完全に直角にできない場合もあります。
重要なのは角度そのものではなく、水を作業道に沿って長く流さず、できるだけ短い距離で下流へ渡すことです。
③ 通水面を前後の路面より低くする

洗い越し部分では、水が通る部分を前後の路面より低くします。
これによって、水が作業道の縦方向へ流れ続けるのではなく、もとの流路に沿って横断しやすくなります。
また、水を一か所へ細く集中させて流速を高めるのではなく、現場条件に応じて通水幅を確保し、水が無理なく流れる形をつくります。
④ 下流側の洗掘まで考える
洗い越しでは、水を横断させれば終わりではありません。
特に注意したいのが下流側です。
水が落ちる場所へ集中すると、土を掘り込み、路肩や路体の基礎を不安定にすることがあります。
そのため現場では、必要に応じて大きな石などを利用し、水の勢いを弱めながら下流へつなげます。
広島県の指針でも、横断排水の排水先について、岩や石による水たたきなどで路体の決壊を防ぐ考え方が示されています。
施工事例①|水が流れている小さな沢
上述した現場では、小さな沢を作業道が横断します。
この現場では暗渠を設けず、沢の流路を残して洗い越しとしました。
通水面を前後の路面より低くし、水が作業道に沿って流れず、そのまま下流へ抜けるようにしています。
沢床や下流側には現地の石を活かし、流水による侵食を抑えています。
洗い越しは、単に「道の上へ水を流す」工法ではありません。
もともとの水の流れを読み、その流れをできるだけ変えずに道を通す施工と考える方が実態に近いと思います。
施工事例②|普段は水の流れていない谷地形
この場所には、普段は水が流れていません。
しかし地形を見ると、山側から谷が下りてきており、大雨のときには水が集まる場所であることが分かります。
そこで、谷の流れに対して作業道ができるだけ直角に近い形で横断するようにルートを取り、その交点に洗い越しを設けています。
次の3枚は、同じ洗い越しを異なる位置から撮影したものです。
3枚を続けて見ると、谷と作業道の位置関係が分かります。



1枚だけでは分かりにくいのですが、3方向から見ると、谷の流れと作業道がほぼ直角に交わっていることが分かります。
水を作業道に沿って長く流さず、できるだけ短い距離で谷側へ抜くことが、この場所でのルート選定のポイントです。
洗い越しはどこでも使えるわけではない
洗い越しは、小さな沢や水みちを横断するうえで有効な方法ですが、すべての場所に同じ形で施工できるわけではありません。
水量が多い場所、集水範囲が大きい場所、流木や大きな石が流れてくる可能性がある場所、渓床や周囲の地盤が不安定な場所では、より慎重な判断が必要です。
林野庁の洗越工に関する資料でも、流量だけでなく、渓流の状態、石や砂利、流木、流路幅、洗掘などを確認して構造を検討する考え方が示されています。
無理に洗い越しをつくるのではなく、場合によってはルートそのものを見直すことも含め、現場条件に合わせて判断します。
施工後の点検も重要
洗い越しは、施工して終わりではありません。
雨の後には、
- 通水面に土砂や枝葉がたまっていないか
- 水が路面に沿って流れていないか
- 下流側が洗掘されていないか
- 路肩や路体に変形がないか
を確認します。
特に安芸太田町に多い真砂土では、降雨による路面侵食や土砂流出に注意が必要です。広島県の森林作業道作設指針でも、真砂土など現地条件が悪い場合には、路面等の侵食や路体崩壊の発生防止を考慮した施工が求められています。
なお、大雨や増水中に確認や通行を行うのではなく、安全が確保できてから点検することが前提です。
まとめ|水の流れを変えすぎない
洗い越しで大切なのは、
水を無理に止めないこと。
作業道に沿って長く流さないこと。
もともとの水の通り道へ戻すこと。
です。
そのために、
- 水の流れを施工前に読む
- できるだけ短く沢を横断する
- 通水面を前後の路面より低くする
- 下流側の洗掘まで考える
- 施工後も点検する
という一連の考え方が重要になります。
森林作業道は、車両を通すためだけの道ではありません。
山の地形と水の流れをできるだけ変えず、森林を長く管理していくための基盤です。
洗い越しは、そのための重要な排水技術の一つです。
「壊れない作業道」という表現について
本サイトでは、地形や水の流れを読み、必要最小限の切土・盛土とこまめな分散排水などによって、崩れにくく長く使い続けられる森林作業道を「壊れない作業道」と表現しています。
これは、どのような豪雨や災害でも「絶対に壊れない」という意味ではありません。
地形・地質・土質・水の流れなど、その場所の条件を見ながら適切に施工し、施工後も点検・維持管理を続けることが前提です。
参考資料
- 林野庁「森林作業道作設指針」
掲載ページ:林野庁「路網整備の推進」 - 林野庁「林道洗越工設計上の留意点等(案)」
掲載ページ:林野庁「森林作業道等の作設に関する情報」 - 広島県「森林作業道作設指針」
掲載ページ:広島県「森林作業道の作設について」
この記事の執筆・監修
久保谷 幸雄|林業家
一般社団法人 安芸太田町自伐型林業を推進する会 監事
広島市出身。2020年から自伐型林業に取り組み、2022年に脱サラして専業の林業家に。広島県安芸太田町を拠点に、森林作業道づくり、間伐、伐倒・造材・搬出、森林資源の活用を実践しています。
自伐型林業歴:6年|森林作業道の作設実績:6,500m超(2026年9月現在)
愛機:STIHL MS 500i/MS 201 C-M
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